頼まれました

天地明察

天地明察

シュピーゲルシリーズやマルドゥックシリーズでお馴染みの冲方 丁の書いた初の時代小説なわけだが、読み始めて最初の十数ページで思った、「こいつは夜寝る前に読み始めちゃいけない代物だ! 読み始めたら寝られなくなる!」、と。


時代モノではあるが、主人公は刀なんか持たされたところで使い様もなく持て余してしまうような優男なのである。今までのラノベでは女の子やらむくつけきマッチョやらが破壊を撒き散らすようなのを書いてたのになんなんだろう、この差はw

主人公の名は渋川春海、碁打ちとして幕府に仕えつつ算学、暦学に通じ、ついには800年延々と続き誤差の隠しきれなくなってきた宣明暦を、20年以上の時をかけて中国の授時暦をもとに日本の緯度に合わせてローカライズした大和暦への改暦を成し遂げた人物である。

正直、起こした失敗をグジグジ悩んだり、人に合うのに臆して何日も悩んだりと、人物像としては頼り無さげに書かれているといのだが、周りの人間に励まされ、教えられながら改暦に立ち向かう姿には涙を禁じ得ない。

とりわけ、最初の北極出地の時の二人の上司建部と伊藤の存在がでかいかなと。晴海より遥かに年上でありながら嬉々として星を観測し、年下なのも一切気にせず天才算術家に師事したがったり、算術や暦術を学ぶのを心の底から楽しんで晴海に望みを託して去っていくわけだが、その姿がカッコよくて俺もこんなオヤジになりたいなと思う次第。


今年の最後に思わぬ掘り出し物の傑作小説にあたって喜ばしいことであるよ。